脳ブームに乗っかってみた〜ぎりぎりで聞こえる自分の悪口

学習とはある意味能力の低下である、という話はよく聞きます。速読関連で言えばページをパラパラめくるだけで読めるとか、この訓練ができるのは小さいうちだけ、とか。
が、この話聞くたびに疑問が浮かぶんだよね。疑問とは「新しい知識を得るときも使えるの?」ということです。
この手の速読ができる子に専門書を見せて理解できるのだろうか。というか、その速読が有効なら小学校の教科書をぱらっと読んで終わりじゃないのか。みたいな。
結局のところこれで読めるのは自分の理解できる範囲に限られるのではないでしょうか。ただ、まあ理解はできなくとも頭に入るのだとしたら全く役に立たないわけではないとは思います。
この辺の話は「おおきく振りかぶって」でも触れられてましたね。

で、感覚の不思議な話は主に視覚の話が多いのだけれど、今回は聴覚の話。

S/N比という言葉がある。SignalとNoiseの比率のことで、聴覚では健常者は-10〜-20dBと言われています。
参照
SN比と聞き取りテストの関係のグラフ(その1)
http://phonakfm.blogspot.com/2011/06/sn.html

どういうことかと言うと人は10dB〜20dBまではノイズカットできるということです。
人が一メートルの距離で話している声が大体60dBと言われています。なので、周囲の騒音が70〜80dBまでなら相手の話す内容が聞き取れるということですね。
このノイズカットは自然に行われるものです。話し手より大きな音を必要ない情報だと無意識に選択しているのですね。

ちなみにこれは健常者の成人の場合で、先天性の聴覚障害の方ですとこのSN比が逆転します。
先天性の聴覚障害の方の場合、補聴器や人工内耳を用いて聴覚を補助することは可能なのですが、どうもノイズのほうを大きく拾ってしまうようです。
このことから音の情報もかなり脳が恣意的に情報を選択していることがわかります。

話を速読に戻しますと、乳児は成人よりたくさんの音を拾っています。
たいていの成人日本人は「r」と「l」の発音の区別ができません。
ですが、もし英語圏で育っていればその区別は成人になってもできます。
もちろん視覚と同様、聞こえる音と聞こえない音にハードウェア面で制約がありますが、ソフトウェア面では割と融通がきくようです。

このSN比で考えれば「飲み会なんかで自分の悪口が言われた時だけ聞こえる」といういわゆるパーティ効果を説明できそうです。
つまり、悪口以外も−20dBまではそもそも聞こえているわけです。で、自分の名前が呼ばれることに人は敏感ですからそちらに注意がむく、と一応説明はできます(私は素人なので学術的にどこまで正しいのか知りません、あしからず)。

補足説明としては視覚や聴覚等はトップダウンボトムアップの2系統が存在するようです。
急に大きな音がしてそちらを向くというのはボトムアップにあたります。
音がする→脳が刺激を受ける→音の方向に注意を向ける
という系統ですね。
トップダウンの場合は相手と目を合わせて会話するときなどの場合です。
相手のいうことを聞こうと最初から注意している→相手が話す→脳が情報を受け取る。

僕らは全て感覚はトップダウンで処理していると思いがちですが、パーティ効果を考える場合、ボトムアップ処理のことを考えるとそれほど不思議ではないように感じます。

で、こっからは完全に与太話なのですが、そもそもその自分の悪口かどうか判断しているのは一体だれなんでしょうね?
急に大きな音がする。何かが目の前を横切る。これらは反射的なもので人間に限らず様々な生物に備わっている機能だと理解できます。
でも自分の悪口となるとかなり複雑な情報です。必要かどうかはかなり社会的な判断に基づいているといっていいでしょう。もっと言えば言語中枢まで情報が到達して初めて処理される類のものです。
当然、言語中枢は左半球の大脳皮質にあります。フロイト的に「それが無意識という意識だ」と言い切っちゃっても説明はつきます。が、どうしてそんな機能が備わったのか。もっといえばどうやってその機能を獲得していったか、と考えるとなかなか難しい話になりますね。

今日の教訓:人の悪口いうときは気を付けましょう