UFO愛好会

ぼくたちは毎週土曜日UFOを呼ぶためにあつまる。

みんなで手をつないで、輪になって、ひみつの呪文をとなえる。

「今日もこないね」だれかがそういいだして、ようやくぼくらは会話をはじめる。たいていは宇宙に関するはなしで、とても科学的とは思えないインチキ話で、そうしてぼくらはもりあがる。ぼくらにはそれぞれ名前があるけれど、それは本名ではなくて宇宙人に通用する、とても発音しづらい名前でたがいによびあう。

それだとふべんすぎる、とだれかがいいだしてからは役職名でよびあうことになった。ぼくは警察官で友好的でない宇宙人や地球人をたいほするやくわりがあたえられている。

ぼくは宇宙人なんてしんじていない。ぼくがこの集まりにさんかするのは料理研究家と逢うためだ。料理研究家は宇宙人と地球人の両方の舌をまんぞくさせなくてはいけないとてもじゅうような役職だ。今日も新作料理をみんなであじわった。

「きょうは塩分がたりない宇宙人用にあわせてみたの」

彼女はそういったが、みんな料理研究家が味オンチであることをよくしっている。それでも料理研究家の役職をあたえつづけているのは多分に外見的特徴のせいだろう。

「塩分過多は体内のpH値を大きく左右させるから、我々人類にはつらいかもね」と、医者がいった。
「ご、ごめんなさい。わたし、ひとつのことにむちゅうになると、ほかのきづかいができなくて。よく空気をよんでってちゅういされるし」

「そんなことは、ここでは気にしなくていいんだよ」と、登山家がいった。

なぜ登山家がひつようなのか、はじめはわからなかったけれど低酸素環境での活動を余儀なくされるばあいのためらしい。そして、たぶん、料理研究家は登山家のことがすきだ。ぼくは料理研究家のことをよく見ているからなんとなくわかる。

「でも、これをおいしいとおもう生命体だってかならずいるはずだよ」
今のフォローはあからさますぎたかな。ぼくは女の子のあつかいがへただとおもう。女の子はみんな宇宙人でした、そういわれてもさしておどろかない。

その日も、最初にきた宇宙人に友好をしめすほうほうについてかたりあった。このときばかりはふだんあまりしゃべらない音楽家も農家もいろいろないけんをいう。
「やっぱり、音楽がじゅうようなのよ」
「可聴域が地球人とちがう場合はどうなる」
「やっぱりあたたかいものがいいとおもうよ」
「あたたかいの定義は」

ぼくたちはいつもまじめで、いつもこっけいだ。

そうして、その日もいつもどおり終わりをつげた。
「今日もおいしかったよ」
そういうと毎回ぎこちなくへんじをする。やさしくされることになれていないせいだろう。



次の土曜日、料理研究家はやってこなかった。そういうことはときどきある。ぼくはずっと聞きたかったことを登山家にたずねた。

「どうして彼女に料理研究家をさせたんです」

「彼女はたべることにつよい恐怖心をもっていてね」

「いいのかい。そんなことまでしゃべって」

「いいさ。かれはもう立派な警察官だ。彼女はむかしふとっていたことでひどくいじめられたらしくてね。料理をつくることをおぼえることですこしでも恐れのきもちをとりのぞいてあげられたらとおもったんだ。はじめてここへやってきたときはやせていた。やせすぎていた」

「今でもやせているとおもいます。とてもうつくしいとも」そのとき、ふとわいた疑念をごまかすようにぼくはいった。

「きみはしょうじきだね。警察官にはむいてないかもな」

「宇宙人と地球人のあいだではうそはよくないとおもうよ」と、医者がいった。

「そうだね。宇宙人に不信感をもたせてはいけない。いまのは軽率だった。わすれてくれ」

ぼくに警察官なんてにあわない。ぜんぜんふさわしくない。




つぎの週、料理研究家がやってきた。

ぼくはかえりみち、料理研究家をよびとめた。

「あやまってすむことじゃないけれど、かおりちゃんごめんなさい」

「・・・!?」

ぼくが本名をしっていることにおどろいたようだ。むりもない。

「ぼくが大人にはきづかせないように陰湿にきみがふとっていることをせめた。きみがたべることをきらう原因をぼくがつくった」

「つ、つよしくん?」

ぼくがうなづくと、料理研究家はにげるそぶりをみせた。けれど、うまくにげれないようだった。つよい恐怖心があしにまとわりついているせいだろう。

「きみがきづかなかったのもしかたないよ。きみとわかれたあと交通事故にあったんだ。ぼくの片目は義眼なんだ。それがコンプレックスでまえがみをのばしていつも濃いサングラスをしているんだ」

ぼくに警察官なんてにあわない。ぜんぜんふさわしくない。

彼女はふるえる足をひっしでりせいでおさえこんで、ふるえる手でぼくにふれた。



「よかった。いきていてよかった」



「なんで、なんでそんなことをいえるの?ぜんぶ、ぼくのせいなんだよ」

「わからない。ただ、わたしのしっているひとがいなくなることがとてもかなしいの」

彼女のふるえるてを、ぼくのふるえるてがつつみこんだ。

「ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい」

「どうして。どうしてあやまるの。あなたが立派な警察官にならないとみんなこまっちゃうよ」

ぼくの声帯がふるえ、ことばにできなかった。

「あなたのめをみせて」
「みてくれるの」
「もちろん」
「いきていてよかった。きみにあえてよかった」
「わたしもあなたがいつも残さずたべてくれたから、つくりつづけていられたから」



ぼくたちはとてもひくい確率でめぐりあった。

きっといつの日にか宇宙人にあえる日がくるだろう。